公開日:2025年11月21日
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建築基準法令における簡易リフトの規制の合理化について

~簡易リフトが昇降機関係規定の適用対象から除外されました。~

一般財団法人日本建築設備・昇降機センター


目次

1.はじめに

 令和7年9月3日、建築基準法施行令の一部を改正する政令(令和7年9月3日政令第310号)が公布され、同年11月1日に施行されました。
 本改正では、以下の背景を踏まえ、図1のとおり建築基準法施行令第129条の3が改められ、労働安全衛生法令において規制している簡易リフト(以下「簡易リフト」といいます。)については、建築基準法施行令第5章の4第2節の規定のうちエレベーター又は小荷物専用昇降機に係る規定(以下「昇降機関係規定」といいます。)の適用対象から除外されました。

  • 簡易リフトは、労働安全衛生法令において「荷のみを運搬するもの」として位置づけられており、人がかごに乗ることを想定していないこと
  • 労働者の安全確保に関する措置が定められており、必要な安全性が確保されていること
  • 主に人が乗降することを前提として安全基準が整備されてきた昇降機関係規定が、簡易リフトに対し過剰な規制となっている現状があること

 本稿では、労働安全衛生法令の適用を受けるエレベーターと建築基準法令との関係を整理しつつ、今回の改正内容について解説します。

表1 建築基準法施行令第129条の3新旧対照表

2.簡易リフトとは

 労働安全衛生法令は、職場における労働者の安全確保等を目的としており、表2に示すとおり、労働安全衛生法施行令第1条第九号に基づき、工場等の事業所に設置され、主として一般公衆の用に供さないエレベーター(以下「労働安全衛生法令のエレベーター」といいます。)を規制対象としています。
 簡易リフトは、図1に示すとおり労働安全衛生法令のエレベーターの一つであり、この度の改正では、この簡易リフトが昇降機関係規定の適用対象から除外されました。

表2 労働安全衛生法施行令第1条

図1 労働安全衛生法令のエレベーターの分類

3.簡易リフトに適用される労働安全衛生法令の技術基準等

 簡易リフトに適用される労働安全衛生法令の技術基準等は、以下のとおりです。
イ.積載荷重0.25t未満の簡易リフト
 積載荷重0.25t未満の簡易リフトは、クレーン等安全規則(以下「安全規則」といいます。)第2条第二号により同安全規則の適用が除外されています。このため適用される技術基準等は特にありません。

ロ.積載荷重0.25t以上の簡易リフト(労働安全衛生法施行令第13条第3項第十九号)
  • 積載荷重0.25t以上の簡易リフトは、労働安全衛生法第42条の規定に基づく「簡易リフト構造規格(昭和37年労働省告示第57号))が適用されます。 
  • 設置にあたっては、労働安全衛生法第88条ただし書きにより労働基準監督署長が認定した事業者を除き、安全規則第202条に基づき、「設置報告書(様式第二十九号)」を提出し、安全規則第203条に基づく荷重試験を実施する必要があります。
  • 設置以降は、以下の自主検査が義務付けられています。
➡ 一ヶ月以内ごとに1回の定期自主検査(安全規則第209条)
➡ 一年以内ごとに1回の定期自主検査(安全規則第208条)

4.労働安全衛生法令のエレベーターのうち昇降機関係規定の適用を受けるもの

 建築基準法令は、建築基準法第2条に基づく建築設備として建築物に設ける昇降機を対象としています。そのため土木、建築等の工事の作業に使用される建設用リフトへの適用はありません。
 また、昇降機は、一定の昇降路、経路その他これらに類する部分を介して、動力を用いて人又は物を建築物のある階又はある部分から他の階又は他の部分へ移動・運搬するための設備をいい、図2に示す工場等の生産・搬送設備、図3に示す機械式駐車場等及び舞台装置であるせり上げ装置は該当しないものとしています2)
 これらを踏まえ、昇降機関係規定の適用を受ける労働安全衛生法令のエレベーターを整理すると、表3の様になります。

図2 工場等の生産・搬送設備の例

図3 機械式駐車場等の例

表3 建築基準法令の適用を受ける労働安全衛生法令のエレベーター

5.令和7年11月1日以降の簡易リフトの取扱い

イ.確認申請

 簡易リフトは、昇降機関係規定への適合は求められなくなる一方、図4のとおり建築基準法第2条第三号に規定する建築設備としての同法第34条に規定する昇降機に該当することから、簡易リフトを設置する建築物の計画に係る確認申請(同法第6条第1項又は第6条の2に基づく、いわゆる「併願申請」)においては、表4に示す建築基準法施行規則第1条の3第4項第一号ハ表1(7)に規定される図書及び書類(簡易リフトのかご又は昇降路の位置を示した各階平面図等)を添付する必要があります。
 なお、設置される昇降機が簡易リフトであるか否かの判断は、当該簡易リフトの積載荷重に応じて次に掲げる資料をもって行って差し支えないこととしています。

  • 積載荷重が0.25t未満の簡易リフト
 簡易リフト自己申告書(図5)
  • 積載荷重が0.25t以上の簡易リフト
 簡易リフト設置報告書(様式第二十九号)(図6)の写し又は簡易リフト自己申告書
 その他、建築基準法施行令で指定する建築設備を建築基準法第6条第1項第一号又は第二号に掲げる建築物に設ける場合に準用される確認申請(同法第87条の4に基づく、いわゆる「別願申請」)は、簡易リフトが建築基準法施行令第129条の3から除外されたことから同令第146条の「確認等を要する建築設備」に該当しなくなるため不要です。

図4 簡易リフトに係る建築基準法第34条、第36条の適用関係

表4 建築基準法施行規則第1条の3第4項第一号ハ表1(7)

図5 簡易リフト自己申告書

図6 簡易リフト設置報告書(様式第二十九号)

ロ.延べ面積

 簡易リフトは、建築基準法施行令第129条の3から除外されたことから同令第135条の16の「容積率の算定の基礎となる延べ面積に昇降路の部分の床面積を算入しない昇降機」に該当しなくなるため、昇降路の部分の床面積は、建築基準法第52条に基づく容積率の算定の基礎となる延べ面積に算入されることとなります。

ハ.定期報告

 簡易リフトは、建築基準法施行令第129条の3から除外されたことから同令第16条第3項に定める「定期報告を要する特定建築設備」に該当しなくなるため、建築基準法第12条第3項に基づく定期報告は不要となります。
 なお、表2で示した要件を満たさない昇降機、例えば学校の給食室の配膳用小荷物専用昇降機など、労働基準法別表第一第一号から第五号までに掲げる事業の事業場以外に設置されるものについては、引き続き昇降機関係規定の適用対象となるため注意が必要です。設置されている昇降機が定期報告不要の簡易リフトに該当するか否かの判断は、確認申請と同様に、図5、図6に示す資料をもって行うことが望まれます。
 また、これまで定期報告を行ってきた簡易リフトについて、所有者、管理者又は検査者の判断で報告を止める際は、取扱いについて所管の特定行政庁へご確認ください。

ニ.用途変更

 労働安全衛生法令の基準のみに適合する簡易リフトが設置されている建築物の部分が、表2に示す労働基準法別表第一第一号から第五号の事業の事業場でなくなる場合、当該昇降機は簡易リフトの条件を満たさなくなるため、昇降機関係規定への適合対象となるエレベーター又は小荷物専用昇降機として扱われることになり、以下の対応が求められます。

① 当該昇降機を昇降機関係規定に適合させること

② 当該建築物が建築基準法第6条第1項第一号又は第二号に掲げる建築物に該当する場合において、同法第87条第1項において準用する同法第6条第1項に基づく用途変更に係る確認申請を行う場合を除き、同法第87条の4において準用される同法第6条第1項による確認及び同法第7条又は第7条の2による完了検査を申請(別願申請)すること

③ 表3の*3に該当する小荷物専用昇降機を除き建築基準法第12条第3項に基づく定期報告を行うこと

6.さいごに

 特に工場や倉庫等においては、建築基準法令の規制の対象である昇降機であるにも関わらず、同法令に基づく確認・検査を受けずに違法に設置された疑いのあるものによって、死亡又は重大な人身事故が発生している事例があります5)。したがって、簡易リフトの該否の判断は慎重に行っていただくようご注意ください。
 また、これら簡易リフトに関する取扱いは、技術的助言(令和7年10月31日国住指発第322号)、パブリックコメントにおける国土交通省の考え方において示されていますので、詳細はこちらをご確認ください。

【参考文献】

1)昭和47年9月18日(基発第602号)「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」

2)平成22年3月29日(国住指第4883号)「工場、倉庫等において設置されるエレベーターについて」

3)平成20年9月22日(基安安発第0922001号)「クレーン等安全規則第154条に規定する定期自主検査について」

4)平成15年7月9日(国住指第1184号)「定期報告制度の運用に係る留意事項について(技術的助言)」

5)違法設置の疑いのある昇降機に係るフォローアップ調査について(国土交通省HPはこちら